サム・ウォルトンについては以前読んだビジョナリーカンパニーで少し知っていたくらい。顧客第一で周りを激励するのが得意な倹約家、というような感じで書いてあったと思う。日本ではあまり名前を聞かないが、本田宗一郎みたいな有名人なんだろうな、と思いながら読みすすめた。

本書はサム・ウォルトンの自伝なので、その生い立ちから書いてある。新聞配達や、飼っていた牛からとれた牛乳を売っていたことなどから始まり、フランチャイズでお店を持ったこと、店を大きくするためにしてきた事、失敗したこと…と続き、自身が病気で亡くなる直前のことまで書いてある。

「お客のためになる事」にとことん心を砕いてきた人で、同じように儲かっている社長が高級車を乗り回したり、島を買うことを何度も批判していた。「自分たちが1ドルでも節約すればそれがお客のためになる」という信念にのっとり、視察旅行の宿泊費や旅費を抑えたり、オフィスが建築現場みたいだったりと無駄な出費を嫌っていたようだ。
Amazonの書評に面白い話が載っていた。曰く、サムの機嫌が悪いときを知っていますか?それは飛行機のファーストクラスしか空いてなく仕方なくそれに乗った時です。との事。ここまで突き抜けてると、逆に気持ちいい。本書にも似たようなエピソードがいくつか出てきて面白かった。(派手な生活をする社員を怒鳴りつけたり、場合によってはクビにしたりetc)

お祭り騒ぎ的な行動や店舗の出店戦略などで批判も多いが、その辺も「わかってやっている」という感じだった。ウォールストリートでフラダンスをやったり会社の応援歌を作ったりと、一種カルト的な雰囲気があるようにも見えるが、それは社員の士気を高めるため、という理由があった。

第11章 文化の創造

(お祭り的なイベントを)うさんくさいとお思いの人もいるだろう。確かにこれ以上うさんくさいものがほかにあるだろうか。しかし仲間が一緒になってこの種の馬鹿げたまねをするということが彼らの士気を高めるのにどれほど有益であるかは、はかり知れないものがある。

お客と同じくらい、社員も大事にした。社員のやる気を高める事で接客態度を改善する→お客がリピーターになる、というのを目標にしていたようだ。この辺のやり方が子育てだったり、人との付き合い方の基本的な部分と重なって見えて、今も昔も変わらないんだなぁと思いながら読んだ。お互いの信頼関係があってなりたつ正のサイクルというか。

Wikipediaのウォルマートのページの「反対・批判」の部分を見ると、ちょっと感情的な批判文が載っている。こういう論調は本国でもあったみたいで、本も出ているらしい。これらに対する回答も本書に載っていた。

「安売り攻勢で地元の競合商店を次々倒産に追い込んだ挙句、不採算を理由に撤退するという形で地元の経済を破壊する事例が相次いだ」に対しては「手ごわい競争相手がやってくると聞いただけで商売をやめてしまうのは、自分がたいした仕事をしていないことを自分自身で認めているからに他ならない」という正論の回答があった。これだけ聞くと成功者の冷たい言葉に聞こえるが、幼い頃からの苦労や経験・小売業という仕事に向き合う態度などを知ってから読んでいくと納得できる。同じ章にある部下のコメントもいい。長いが引用する。

第12章 顧客最優先

私たちはこういう小都市をめぐる議論に同情したことはない。小都市の既存の商人に起こった現象は50年代にスーパーが初めて出現したときと全く同じであった。小売業の真髄は顧客にサービスをすることに尽きる。競争がなければ高い価格を設定し、開店を遅らせ、閉店を早め、水曜日と土曜日の午後を閉店とすることも可能である。従来と変わらない商法を続け、満足していればよい。しかし競合店が出現したら、顧客が古い付き合いであるからといって、いままでどおりお客が来てくれるなどとは期待するな。ウォルマートやそのほかの大手小売業者に対抗する方法は、少なからずあるはずである。その基本理念はごく基礎的なことで、消費者が求めるものに焦点を当て、それを提供するということである。

うちの地元にこういうことをやっていた悪質なおもちゃ屋があったので妙に納得しつつ…。普通ならただの理想論で終わるところを、実際に実現しようとして周りを巻き込んでいけるパワーのある人だったんだなと。物事の本質をしっかり見ている人だったんだなと感じた。

監修者のあとがきに「自伝はあくまで「自」伝であり、そこには何らかのバイアスが入っているであろう事を覚悟しなければなるまい」とあるし、本に書いてあるいい事にアテられただけだとかっこ悪いので、別の視点からの本も読んでおきたい。訳書が出てなくても、ダイエー絡みの本で代用できるかな?出店への期待・批判がそっくりなので。

分厚い本で読み応えがあったが、良い本だった。問題点の内容が日本と変わらないのも発見の一つだった。絶版らしいので古本屋で見かけたら買っておきたい(とAmazonのレビューにあった)。