URのマンションにもう15年くらい住んでいる。ここは年配者か子育て世代しかいないので静かで住みやすく気に入っているのだけど、4年前に上に引っ越してきた人がだいぶうるさくて困っていた。いろいろ調べて自分で民事調停を起こして解決した。
時系列
4年前の話
下の子が生まれて1歳になった頃に、真上に5人家族が引っ越してきた。挨拶に来られたのはご両親と小さい男の子の3人だったが、あと二人子供がいらっしゃるとのことだった。見た目は普通の、このマンションによくいるような家族だった。こちらも子供が2人いて、下階とはいえ音や振動は上にも伝わるため、うるさかったら教えて下さいね、というような事を話してその場は終わった。
夕方や夜はたしかに足音がドコドコうるさかったが、うちの子もフローリングで飛び跳ねてるしそういうもんかな、と思って気にしないでいた。岐阜の母親が遊びに来て、子供を寝かしつけてリビングでおしゃべりをしていた22時頃に、会話が聞こえなくなるくらいの音でドコドコ鳴っていて、「上の人うるさいんやね」という感想を漏らしていた。
22時から2時くらいまで満遍なくうるさい。早起きするために子供と一緒に寝ても同時間帯に何度か起こされてしまうので、だんだん朝起きられなくなってきた。URの管理事務所に相談に行くが、ここのスタンスは「トラブルは住民同士で」なので、事務所からは張り紙を出すのみとなった。これでは改善はされない。
仕方ないので張り紙掲示から2ヶ月後くらいに丁寧な文面で上の人に手紙を出したが、特に改善されることはなかった。この年の年明けの深夜1時頃に凄まじい音(部屋で金槌を使うような音)が鳴り響いてきたので、慌てて外に出て電気がついている部屋が真上だけなのを確認して警察を呼んだ。音はすぐ収まったが、一週間後くらいにまた出るようになった。
3年前の話
上の子が小学校に上がった。奥さんは1歳児を見ているので、家族の朝食、長男の支度、7時半の登校に間に合わせるために6時に起きる必要が出てきた。自分は8時間寝ないと調子が出ないので、逆算して22時には寝る必要がある。だが前述の通り夜中がうるさいので、朝寝坊したり、仕事に支障が出るようになってきた。
深夜に大きい音が出たタイミングで再度警察を呼び、URの事務所にも相談してヒアリングをしてもらったがどちらもすごい回答だった。 「上の人は音を出していないと言っています。子供も寝ているそうで…」。 こういう音は斜めにも伝わるので、音の原因は実は真上の人じゃなかったのかも?とよくわからなくなってきた。
出どころはよくわからないが、音が鳴り出した時に天井を棒で思い切り殴ると音が収まることに気づいた。何度か試してやっぱり真上かも?という気がしてきたので、強めの内容の苦情の手紙をポストに入れた。
その後も数日は収まるものの一週間も持たず再発するので、その度に天井を殴っていた。壁紙に跡が付いて破れかけている。そこまでしても一向に改善されないので、かなり大きな文字で苦情を印刷してドアポストに入れた。
「深夜2時に就寝」というのは、深夜2時以降には音が出ていないからである。「重いもの」というのは、23時に帰宅する日はなにか重い荷物をゴン!と下ろすからである。「自身も」というのは、なぜかカカトで床を打つようなゴン!という音が何度も出ていたからである。ちなみに上の紙はA4で印刷した。
2年前の話
相変わらずうるさかったが、23時頃に足踏みと一緒に歌っているような声も聞こえてきたので、例によって外に出て明かりのついている部屋を確認し、警察を呼んだ。いい加減腹が立っていたので自分も部屋についていくと言ったが、警察に止められたので少し離れたところで見ていた。警察が部屋のベルを鳴らすとインターホン越しに大音量の音が聞こえる。警察だとわかるとすぐ静かになり、大音量の音楽はその日限りで収まったが、相変わらず大きな足音、ドアを閉める轟音、物を派手に置く音は続いていた。
マンションの事務所もダメ、警察もダメ、手紙書いてもダメ、こうなったら自分で解決するしかないなと思い立ち、ESP8266の開発ボードとMAX4466というマイクモジュールを用意し、音の記録を集めはじめた。
騒音を収集する
ESP8266はWi-Fiが使えるので便利。そこにMAX4466を適当につなげて周りの音を拾ってみると、音の大きさを電圧で表現するが対数的な値になる。これをdB(デシベル)に変換できればよかったのだけど、そういったライブラリもなく、自力で計算するのは難しいらしい。代わりの方法として「出てきた電圧を実際の音量とマッピングしておく」というやり方がどこかに書いてあったので、スマホの騒音計アプリを使って細かく調べていた。
ただ、スマホアプリの精度に不安があった。自称72dBって言われても信憑性がない。Amazonで騒音計を調べてみると、3,000円くらいの安いものか3万円超えの業務用しかない。業務用は機能的に問題ないが高すぎるし、安物はスマホアプリとあまり変わらないような…?という不安がある。
Amazon.co.jp : 騒音計の検索結果
業務用の騒音計は市役所で借りられる
騒音計が高いのでレンタルできるところを探してみたが、レンタルでもまだ高かった。あと手続きが面倒そう。三鷹市内に相談できるところは無いだろうか?と「三鷹市 騒音計 貸し出し」で検索したら市の環境課が貸し出しをしていることを知った。
三鷹市 |騒音計の貸出しについて
他の地域でも貸し出しが行われている。
騒音計 貸出 市役所 - Google Search
すごく意外だったが、
市内で発生している騒音を自ら測定することや、環境学習活動で使用する方を対象に騒音計の貸出しを行っています。
とあるように、図書館の権利宣言みたいな知る権利みたいなものがあるような気がした。人権持っててよかった。
という事で2週間だけリオンのNL-06という立派な騒音計を借りることができた。スマホアプリの精度が意外と良くて、NL-06と大体同じくらいか、少し低い値が出る、ということが分かった。MAX4466の出力もだいたい確認した。
受忍限度論
「マンション 騒音」で検索すると、弁護士のサイトなどでたびたび「受忍限度」という単語が出る。人間が我慢できる常識的な音量の事で、環境省が基準を定めている。
環境省_騒音に係る環境基準について
ここにさらに住んでいる地域の条例などが加わる場合もある。うちはそうではなかったので 「昼は55dB以下」「夜は45dB以下」 であれば適正となる。夜間の定義は 「午後10時から翌日の午前6時」 となっている。
ここで、NL-06についているロガー機能で記録した夜間の音を見てみよう。
「夜間に受忍限度を超えている音が出ていますね。なぜなら夜間に受忍限度を超える音が出ているからです」 という大臣の声が聞こえそうなレベルの音が確認された。
特に84.7dBの方はかなりヤバく、寝ている耳元で一斗缶を叩いたような音がして一発で飛び起きてしまった。「走行中の電車内、救急車のサイレン(直近)、パチンコ店内」相当の音らしい。
騒音の大きさの目安/深谷市ホームページ
ESP8266からIFTTT経由でGoogleスプレッドシートに保存していたので、騒音計NL-06のレンタル期間はそれの答え合わせをした。また具体的なdB値も保存しておいた。
ちなみに、IFTTT経由では2000行までしかスプレッドシートが使えず、超えると別のファイルになってしまう。受忍限度の話を組み合わせるとこちらが欲しいのは 「22時〜6時」かつ「45dB以上」 の音だけなので、そういう設定を足していい感じにログを貯めておいた(実際は21時から取っていた)。
住民への聞き込み調査
深夜にものすごい音を出してるので、自分以外も音を聞いているんじゃないか?と思って周辺住民への聞き込みもした。問題の部屋から上下1階、左右と斜めは2部屋分の13部屋を聞いてまわると、すぐ隣の部屋の人から「そこの子供部屋がうるさいね」という証言をもらえた。加えて、ヒアリングして回った際に各部屋に住んでいる人たちを実際に見ることができ、ほとんど60代以降の夫婦だと分かった。
60代の人が深夜2時に暴れるとも思えないので、まぁ真上で確定だろうなと絞れてきた。
弁護士に相談する
上の電子工作と並行して、弁護士への相談もした。と言っても弁護士のアテはまったく無いので「三鷹 弁護士」などで検索しては「でもお高いんでしょう…?」と思ってページを閉じていた。
偶然Twitterで「ネットで誹謗中傷を受けて、お金がないので 法テラス に相談したらいい感じに解決に向かった(お金は相変わらずかかっているが)」みたいなツイートを目にして、法テラスのことをざっと調べて連絡をとった。
上にあるように、相談できる条件を満たしていれば、1案件につき30分、3回まで無料相談ができる。持ち時間があまりないので、先に資料を作っておき、つないでもらった弁護士の方にその場で読んでいただき、感想をもらった。
弁護士の方いわく、「騒音問題で訴訟を起こしても、弁護士費用でマイナスになる可能性がある」「ここまで調べてあるなら、弁護士を使わず自分でやる”民事調停”という方法もあるよ」と教えていただき、資料の不備も指摘してもらった。この弁護士の先生には2回相談したが、2回目の相談の前に上の表の末尾にある「警察の訪問(4回目)」が発生しており、さすがに呆れていた。
2度目のチェックで良さそうな返事を頂いたので、念の為三鷹市の無料弁護士相談も利用して、別の方にも意見を頂いた。そちらでも問題なさそうな反応だったため、武蔵野簡易裁判所に行き手続きをした。
民事調停
調停は,裁判のように勝ち負けを決めるのではなく,話合いによりお互いが合意することで紛争の解決を図る手続です。調停手続では,一般市民から選ばれた調停委員が,裁判官とともに,紛争の解決に当たっています。
民事調停 | 裁判所
という事で、話し合いで円満解決を目指すものが民事調停らしい。弁護士の対談記事みたいなものもいくつか読んでみると、弁護士側としては「すばらしい制度!」という雰囲気だった。ただし強制力がないので申立てを受けても無視することができてしまい、無視されるとそこで調停不成立として終わってしまうし、それを逆手に取ってそういう戦術として使う人もいる。ただ、そのまま訴訟に移行すれば申立てに払ったお金をスライドさせることができる…と言うような事がわかった。
証拠も揃って資料もできてて弁護士のアテもあるので、なんかあったら訴訟すればいいや、と手続きを進めた。切手やら収入印紙やらを郵便局に買いに行ったり、書類作ったりと地味に面倒くさかったが、社会勉強だと思って進めていった。武蔵野簡裁の受付の人からの、少し上からの圧を感じつつ…。
9月末くらいに手続きをして、1〜2週間程度で相手方に調停期日通知書が届いた。上の散布図は21時〜6時に発生した45dB以上の音を記録しているが、 10月上旬に目に見えて減って爆笑である。 やればできるじゃないですか。3年かかったけど。
その後
初回は旦那さん、2回目以降は奥さんが調停に参加した。素直に調停に来る、というだけで新しい情報である。最初と最後だけ顔を合わせたが、それ以外はお互いに会わないように、タイミングをずらして調停室に呼ばれて調停員と話をした。
実は騒音は複数あり、北側の子供部屋と、南側の居室の2種類があった。子供部屋もまぁうるさいが、小学生なので深夜2時は寝ている。なのでもう一つの部屋が問題だと思っていたのに、なぜか子供部屋の対応をした話ばかりが出てくる。過去にこちらが手紙を出した際も「子供部屋は対処した」そうで、「対処していたのに効果がなくすみませんでした」という回答をもらった。
変だなと思っていることを伝えると調停員の方がヒアリングを続けてくださり、実は高校生の子供とうまくいっておらず…みたいな話が出てきた。 問題の本質そこじゃねーか! だから「2時に就寝している方へ」って書いたのに。その子が出しているであろう音の種類を伝えて防音対策をしてもらい、一ヶ月様子を見ましょうかとなり、するとなぜか相手方が3月に転居すると言い出し、しかし調停員が「転居しない可能性も…」と助言をくださり、しかし今の通勤時間が1時間を超えているのを知っているので転居もなくはないと思いつつ、3回ほど調停を行い、いくばくかの慰謝料の支払いと今後騒音を出さない、という合意をもって調停成立となった。
その後も音はたまに出ていたが、調停以前と比べるとだいぶマシになっていた。4月になっても普通に上の部屋に住んでいてビックリしたが、しばらくしたら引っ越すと手紙をもらい、5月末に転居していった。転居から一週間経つが、深夜に70dBとか馬鹿みたいな音は聞こえなくなった。
ちなみに…旦那さんは都内の有名私立の大学院を出ており、東日本の大きな鉄道会社から一転して化粧品のネットワークビジネスを始められていたが、肌に合わなかったのか住宅系の企業に転職されていた。住宅系なら鉄筋マンションの防音性能とかそれを超える音とかすぐわかるだろうに、なんであんなトンチンカンな回答が出てくるんだ、まったくいろんな人間がいるな、と言う気持ちでいっぱいです。